怪人対談
対談者・マリーナ号(石井)さん&酒井萠一

<石井>
ここで気分を変えて怪人に関する考察をしてみたいのです。
本邦に於ける最後の(公認)怪人は伊福部先生である事は論を待たない訳ですが、
では怪人はどのように発生してきて、そしてどのように滅びへの道を辿ったのか?
私、考えるに産業革命とか市民社会の成立とか、その辺りが発生時期ではないか
と疑っておるのです。

あるいは、最初のゴシック小説として知られる、「オトラント城奇譚」が書かれた
辺りか?中世なんかは非常に怪人に似合いの時代かとも思えるのですが、ただあの
頃は人間は年を経れば普通に怪人状態になった、つまり老人=怪人なので珍しい事
ではなかった。

歴史の流れのどこかで社会構造の変化、と言うかそれに伴う人間の意識の変革があ
り、そのへんに、カタギの人間と怪人とが枝分かれした秘密があるのではないか?
その瞬間を知りたい。
それによって、今日、怪人の絶滅状態を招いた理由も明らかにされるのでは?など
と思っておるのです。

日本の昔の文学者に、非常に怪人度が高いのは何故か?等々、研究の余地は様々に
残されております。怪人の全盛時代っていつ頃なんでしょうね?
文学者=怪人と言えば、女性版の怪人は?なんて話がありましたが、森鴎外の娘、
でしたっけ、森茉莉なんてのはいかがでしょう?というか、そのくらいしか思い当
たりませんね。

クラシック系怪人フィギュア制作の際には、ベートーベンは彼が晩年、耳を悪くし
てから愛用していた、巨大なラッパ型の補聴器とコミで作っていただきたい。発売
の予定があるとは聞きませんが(笑)
 それにしても、クラシック好きの人たち対象の食玩に入れる食べ物は何?酢コン
ブやタコキムチではまずいような気がするけど(笑)

<酒井>
たしかに、そうですね、中世あたりだと一般庶民が怪人化してるみたいなイメー
ジがありまわ。
暗闇だらけの都市や村には怪人が良く似合う?似合いすぎかもね。
やはり中世といえば、キリスト教との関係も考慮に入れなければとも思いますね。
人々の常識というか思考のすべては、キリスト教的宇宙に支配されていたんだから
・・・。
しかし「怪人」と呼ぶには、チョット雰囲気違うような気もしないではないが・・

ルネッサンス以降から近代にかけては、怪人の全盛期じゃないかしら?
特に画家なんかは、近代あたりまでミ〜ンナ怪人してます。
ダビンチ、ミケランジェロ、レンブラント、ボッシュ、デューラー、絵画自体も
凄いが、本人も怪人してます!!
画家はわりあい近代まで怪人が多いですね、シュールレアリズムあたりの画家は
すべて「怪人」と言い切っても良いです。
あ〜、あと哲学者なんかも怪人っぽい人が多いです。
ショーペン・ハウエルなんか「怪人」そのもだっ!
現代の画家でも、マルセル・デュシャン、アンディー・ウオーホールなんかも怪
人だなぁ・・・!!

日本では、怪人と呼んでも抵抗のない人々は明治に入ってからですね、感じとし
て。
江戸時代以前は、怪人というより「怪僧」みたいな人物像のほうが印象が強い。
日本では、明治後期から昭和初期にかけてが、怪人の収穫期ではないでしょうか?

で、いったい怪人と時代との関係は・・・??
テクノロジーと科学の発達との関係が強いような気がします。
神VS人間・科学VS自然・・色々考えられるなぁ・・・・

怪人哲学者シリーズは「燻製牡蠣」の真空パックのおつまみ。
音楽怪人シリーズは「エスカルゴ」の真空パックおつまみ。
アート怪人シリーズは「フォアグラの缶詰」あたりでどうでしょう?
高価な食玩になりそうだ・・・。

実のところ「経済」が「怪人」を絶滅に追いやっていると思っているのです・・・
野生動物と同じ状況ですね。
21世紀に、もう「怪人」は現れないのでしょうか・・・???(涙)
我々は懐かしく、過去に闊歩した怪人達を追想するだけなのでしょうか(涙涙)

<石井>
科学・哲学系怪人となると、精神分析の分野からシグムント・フロイト、そして
ユングの師弟コンビもキープしておきたいです。
科学者方面にも豊富な人材が眠っていそうだ。あと、マルクス、エンゲルスなん
て人たちはどうなんでしょうね?

日本の怪人史が明治期に入ってから、というのは感じますねえ。それ以前の時代
に怪人的な動きを示し得たのが「怪僧」すなわち、当時の知識階級である「僧」
のポジションにある人たちだけだった、というのも考えさせられる話です。
怪人の消長の謎を解く鍵があるかも。

ひょっとして、人間の意識がある段階から別の段階に移行する過程で、その歪み
の狭間から生まれた、と言うかはみ出てしまったのが怪人、なのかも。

クラシック怪人フィギュアの箱には、CDの場合と同じような大げさなフレ−ズが
飛びまくるでしょうね。至高の!究極の!史上最高峰!超絶技巧!とかね。クラ
シックの人たちって、どうしてああオーバーなフレーズが好きなのかなあ。
もう、かまわないから1箱1000円とかで売っちゃいましょう(笑)超絶技巧
で作られた至高のフィギュア!まさに究極の芸術作品!とか歌い上げれば1ヶ
1万円くらいでもオッケーかも。

<酒井>
フロイトのジオラマは、巨大男性器と女性器にフロイトが襲われてるジオラマ。
ユングには、アニマとアニムス付きのジオラマでお願いしたいものです。
無意識的集合意識のジオラマでもOKよ!(どうやって表現するの?)

怪僧ラスプーチンみたいな奴は、怪人か怪僧かどっちに分類しよっか??
進化した奴が「怪僧」で、道を外れた奴が「怪人」??

禅僧なんか、ほとんど怪人っぽいけど、良い奴だったりもするしなぁ。
一休さんは?道元は?空海なんかは怪人でもあるけど聖人でもあるし!
時代と功績によって、評価が分かれるといったころでしょうか・・・・??

こーなりゃ、おフランス料理のフルコースを食べると、クラッシック怪人フィ
ギアが付いてくるってーのは?
こりゃぁ「お子様ランチ」ですなぁ!(爆)

古今の怪人を考察した哲学書に、カントの名著「実践怪人批判」「純粋怪人批
判」「怪人力批判」があります。
これらは、「三大怪人批判」として歴史的に有名で、怪人の実存的意義につい
ての教科書的名著でもあります。
また、ドイツ怪人論の草分け的名著、ショーペン・ハウエル「意思と表象とし
ての怪人」は、怪人の現象学的存在においての先駆的哲学書です。
おフランス怪人啓蒙思想家ジャンジャック・ルソーの「怪人不平等起源論」は、
凡人と怪人の分岐的実存の有り方につての考察は、大怪人百科全書学派と共に
怪人論の名著と謳われています。
ジャンジャックの体験的怪人論「孤独な怪人の夢想」は、文学作品としても世
界の人々に読み継がれているようです。
また近代にいたっては、ヴィトゲンシュタイン「論理怪人論考」は、怪人の現
代的存在意義について鋭い洞察力で分析した衝撃的な哲学書であります。

日本においては、江戸末期の新井白石・杉田玄白「怪人新書」は、怪人を解剖
した唯一の奇書であると言われております。
また怪人を俳句の季語として表現した松尾芭蕉「怪人の細道」は、日本の古典
文学として高い評価をうけています。
近代日本の怪人岡倉天心の名著「怪人の本」の「怪人は一つである・・・」は、
もっとも有名な怪人賛歌としてあまりにも有名であります。

<石井>
うーむ・・・どの本も古書店や図書館の、誰も立ち入らない辺りにひっそりと、
埃を被りつつ置かれているって風格がありますな。うっかりその辺りの書棚に
迷い込むと・・・当然ながら図書館の怪人に遭遇してしまうわけです。おおお。
凡人よ、あだやおろそかに禁断の書を紐解く事なかれ・・・

先に、高田渡氏には怪人の素養はあるものの貫禄足らず、などと話しましたが、
あえて怪人になり損ねた人々について考えて
みるのも、逆方向から怪人の本質に迫る手立てかもしれません。
例えば。

☆アインシュタイン
 変にメジャーな理論など思いついてしまったばかりにつまらないポジションに
行ってしまいましたが、報われない奇理論にでも打ち込んでおれば。いや、あの
出たがりの性格では、どうにもならんか。
☆植草甚一氏
 もうほとんど・・・という気がするんですが、何か違う。やはり時代でしょうか。
☆エドガー・アラン・ポー
 文学上の業績はあれど、ご本人が迫力足らず。むしろ江戸川乱歩氏の方が怪人
度では圧倒的に差をつけている。
☆色川武大氏
 ルックスは申し分なし。もっと長生きすれば、良い具合に怪人として熟成された
かも。この辺が怪人の生き難い時代なのでしょうか。
☆ムツゴロウ氏
 怪人の気配はあるのですが、「動物王国」などといって健全な世界を演出してし
まってはぶち壊し。まあこれには、生き残るために「営業」もせねばならん、とい
う裏事情があるわけで、
酒井さん言われるところの「経済が怪人を追いやる」の一症例かも?と思い、挙げ
てみました。
☆マザー・テレサ
 そんなん言うたらいかん。とは言うものの、ギリギリですぜ、この人。
☆日野原重明
 と言っても誰やら分からないかと思いますが、書店に行くと、白衣姿のこの老医
師の写真を表紙にした本がやたら目に付きます。聖路加病院理事長にして90歳の
現役医師。「生き方上手」なんてタグイの、まあ人生相談本が受けてブレイクして
るようなんですが、おそらく優しく相談に乗ってくれるおじいちゃん、みたいなポ
ジションなんでしょう。でもねえ・・・
90年も生きて、ですよ、しかも職業は医師だ。ここまで条件が揃って、なぜ怪人
化しないのだ?怪人不毛の時代を象徴する人物かとも思い、挙げてみました。

<酒井>
【アインシュタイン】
あれで性格がもっと屈折していれば「怪人」間違いなし!といった処ですね。
妙にヒョウキンな性格が、怪人から遠ざかってます。 
【植草甚一氏】
ちょっとオシャレ過ぎ?かな?
性格の屈折率が「暗黒面」に向いてない。
結構「人付き合い良さそう」な感じが、怪人と呼ぶには無理があるか??
【エドガー・アラン・ポー】
ちょっと「せんがほそい」性格が、怪人と言いがたいかも。
暗い性格っぽいけど大胆さに欠けるか?
【色川武大氏】
この人はあまり知らないので、素通りします(笑)
【ムツゴロウ氏】
怪人まであとチョットで脱落しちゃいました、って感じの人物。
「怪人」よりも「経済的安定」を求めた結果の怪人像のサンプルです。
【マザー・テレサ】
(爆)たしかになぁ・・・女版かもぉ・・・
博愛主義にドップリ漬かってるので却下か?
【日野原重明】
人生の先達者、失敗なんて気にしない、好々爺、順風満帆、前向き人生・・・
・・・もードーデモいいや!!この人(笑)

上記の逆の人物像が「怪人」と呼んでも良いことにしよう!・・・かな??

<石井>
酒井さんの”世界はフィギュア”論、感服いたしました。
庭園や寺院がフィギュア、ととると、なかなか面白い世界が見えてきますね、
確かに。「自然」や「極楽」の観念をフィギュアという仮想の空間に置き換えて、
捉えなおそうとする、なんて意識でもあるんでしょうか、人間の心の中に。

ふと思いついたんですが、江戸川乱歩の「パノラマ島奇談」なんてのは、「フィ
ギュア文学」の先駆け、と言っていいんじゃないでしょうか。まあ、これは思い
つきで言っているんで、もっと以前にも何か書かれていたのを後になって思い出
すかも知れませんが。
乱歩のものでは「押し絵と旅する男」なんてのも、作中の「押し絵」の描写なん
か非常にフィギュア魂に溢れるもので、なかなかに興味深いです、乱歩とフィギ
ュア。

<酒井>
おお、そーだ!「地球儀」は一番デカイ物のフィギアかもしれませんね!
お寺もそうだけど、キリスト教会もフィギアだらけですよね・・
イエスの磔刑像も、アートというより現場をリアルに再現したフィギアといった感じ。
とかくこの世はフィギアで埋まってます!!(嗚呼!無責任発言)

パノラマ島奇談、押し絵と旅する男
たしかにミニチュア(フィギア)を面と向かってテーマにしてる作品かもしてません。
乱歩氏が生きてたら、絶対フィギアにハマッテルと思いませんか!
絶対、監修なんかも率先してやってるなっ!
「乱歩監修の食玩は、売れないがプレミア物ばかりだ!」とかいって。