変身/寺山乳司 わたなべG:作

乳のちぢむ病といふあり,ある巨乳の女,朝,引出しの中なる乳当てをつけむとして回したれば,ゆるくとどき過ぎるなり。
不審に思ひて乳丈,乳の高さなどはかりたれば,あきらかに前日よりちぢみゐることに気づく。
医師にあひて,この大事訴へたれど,医師あざ笑ふのみ。
女,気に病みつつもほどこすすべなく,しだいに低くなりゆく乳頭の先を見下ろしつつあれば,さらに,ちぢみゆくなり。
日をふるほどに,乳,Cカップにちぢみ,Bカップにちぢみ,Aカップにちぢみ,叫ぶこゑにさへ揺れずなりぬ。
かなしみて詠めるうた。

巨乳(おおちち)の陽のあたらざる裏がはにわれ在り一人青ざめながら

されど乳のちぢむ病,巨乳のみのものにあらず,万物のさだめにてありと説く学者曰く「身体のちぢむ速度と,乳のちぢむ速度の比こそ問はるべし。この比の破れたるときのみ貧乳,巨乳の類あらはるるなり。ただひとり,いそがむとするもののみ恐怖につかれむ。いざ,身体ゆっくりとちぢむべし。乳とともにちぢむべし。これ,天人の摂理にして,すこやかなる掟なり。」
…乳のちぢみたる女,乳当て不用となりて「ああ,ひとなみにちぢみ,おくれもせず,いそぎもせざれば,かく恥をかくこともなからざりしを」と嘆息せりときこえしが,いかに。